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「きょうの料理」で見る「きょう」

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国民的な長寿な料理番組「きょうの料理」の記事より

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ハッチポッチ・クリティシズム2 
第5号(2009年03月05日)

発行:佐藤清文(hpcriticism@yahoo.co.jp)


「きょうの料理」で見る「きょう」


NHKは、2009年2月18日、教育テレビの料理番組「きょうの料理」で紹介する料理の食材の量をこれまでの4人分から2人分に変更すると発表しました。

3月30日放送分から適用されます。

1957年の番組開始当初は5人分設定でしたが、核家族化の進行を主因として、65年に4人分へ変わりました。

今回の変更はそれ以来です。

当初の5人構成は父母と子供二人に、戦争未亡人という設定でした。

1世帯当たりの平均人数が4人となったため、1965年1月から4人分に変更になったのです。

現在の出生率はすでに1.3人を切っていますから、夫婦だけの二人家庭が多いのも確かでしょう。

もっとも、少子化の進展に伴い、実態に合わせるべきではないのかと見直しが議論が内部ではここ最近続いていました。

しかし、家族揃っての食事や一家団欒という食卓のイメージは残した方がよいという判断から、見送られてきたのです。

こういった変更論議は他の長寿番組でもあります。

「おかあさんといっしょ」も、家族形態の多様化と男性の育児参加を踏まえ、タイトルを変えたほうがいいのではないかという意見が根強くあります。

何しろ、「きょうの料理」は現行のテレビ番組としては最長寿です。

アレンジを変えただけで、依然として富田勲作曲のオープニング・テーマを開始から使っています。

もし仮に「テレビと料理」というトピックを考察するとしたら、最優先の番組でしょう。

同番組の湯川英俊プロデューサーは、今回の決断の理由として、「少子化で世帯人数が減少傾向にあることに加え、廃棄される食べ物が増える状況で食物を大切にする姿勢を示した。

テキストの読者アンケートでも2人分を望む声が増えていた」と説明しています。

今後は2人分を基本にしながら、料理に応じて柔軟に対応するとも付け加えています。

もちろん、いつも基本人数分だったわけではありません。

1962年、尚道子が沖縄料理を初めて紹介しましたが、そこでの「ソーミンチャンプルー(そうめんの炒め物)」は2人分でした。

また、80年代から単身赴任など一人暮らし向けの料理を扱ってきましたが、それらは1人分です。


正直なところ、あくまでもレシピなのですから、番組やテキストで4人分となっていても、つくる側が必要人数分に応じて変えればいいはずでしょう。

視聴者もそこまで杓子定規ではないものです。


しかし、「きょうの料理」の歴史を辿ってみると、それが非常に戦後社会の実情・変化に対応してきたということがわかります。

今回の変更も同番組が意識し続けている「きょう」の反映なのです。

1957年11月、「きょうの料理」が10分番組としてスタートします。

1956年度版『経済白書』は「もはや戦後ではない」と謳いました。

復興から発展へと国家目標が変わり、生活水準の向上が唱えられるようになりました。

テレビ受信契約数が100万台を突破したには翌年の1958年です。「きょうの料理」が始まったのはそんな時代でした。

番組開始当時のコンセプトは、ずばり「ボリューム」です。

国民営要調査は、1958年、4人に1人が栄養欠陥状態にあると発表しています。

こうした社会事情を考慮して、「きょうの料理」は高カロリーの料理を家庭に紹介しています。

土井勝が『きょうの料理』1962年11・12月号であげた「豚肉ともやしのみそ汁」は、それをよく伝えています。

具は豚の薄切り肉ともやしにねぎとシンプルなのですが、バターを大さじ1杯半を加えています。

しかも、これは朝食の一品なのです。

同じメニューでも、昔に比べて、今は熱量が減らされてあります。

『きょうの料理』1967年10月11月号で、土井勝が紹介した「ひじきと油揚げのいため煮」は268キロカロリーであるのに対して、同誌1995年1月号における田村隆の「ひじきの煮物」は180キロカロリーです。

何しろ、前者が砂糖大さじ8杯、後者では2杯です。


この頃は現在と違い、食材や情報が乏しいので、さまざまな工夫がなされています。

トマトピューレをトマトケチャップを水で延ばして代用したり、海外生活の長い元外交官夫人が料理をつくって見せたりしています。

当時のスパゲティは、稲庭うどんのように、茹でた後、水で締めなければなりませんでした。

また、同じ食材でも、品種改良や出荷の際の手間暇が違いますので。

現在とはとりあつかい方が異なります。


「きょうの料理」の成功に刺激を受けた民放各局も、類似企画番組で追随し始めます。

1989年から61年の間、テレビ料理番組が第一期黄金時代を迎えます。

1958年、NHKは番組テキスト『きょうの料理』を刊行します。

これは番組内で紹介した料理のレシピだけでなく、拡張した料理に関する知識がふんだんに盛りこまれています。

メディア・ミックスの先駆と言ってもいいでしょう。


ただ、テキスト作成は番組以上に苦労が絶えませんでした。

写真撮影はかなり前に行うのですが、旬の食材を手に入れるのが非常に困難でした。

2003年に刊行された『きょうの料理が伝えてきた昭和のおかず』を読むと、当時の事情がよくわかります。

苦労の甲斐もあって、非常に好評で、78年に100万部を突破し、ベストセラー雑誌の仲間入りを果たしています。


料理関連の印刷媒体は、この流れに沿い、60年代半ばから売れるジャンルに成長していきます。

現在では、ほとんどの新聞や雑誌などの印刷媒体が料理を扱っています。

日本経済新聞のような経済新聞でさえ、載っているのです。


「きょうの料理」は1959年4月から15分番組、63年4月より20分番組に変更されました。

66年7月から、東京地区で番組がカラー化されます。

こうして現行のフォーマットに近づいていったのです。


栄養状態が改善されていくと、今度は肥満が社会問題化し始めます。


1972年頃から一億層肥満化が叫ばれ始め、80年代に入り、「ヘルシー」さが料理に求められたのです。

カロリー数を気にせずに食べる時代ではなくなったのです。

さらに、80年代後半になると、強い円を背景に海外旅行者数が増加したこともあり、エスニック料理など多種多様な料理への関心が高まります。

「きょうの料理」もこの傾向をとり入れます。


こうした大きな嗜好の変化だけでなく、その時々のニュースや世相を調べると、少しのタイムラグがありながらも、「きょうの料理」がそれに敏感に反応していることがわかります。

1974年5月号は、前年のオイル・ショックを踏まえて、「安上がりな献立5日間」特集組んでいます。

他にも、さまざまな企画がとられています。


90年代半ばから、初心者向けの企画が積極的に行われるようになりました。

岩井小百合や冴木かおりなどの女性タレントに田村隆や谷口博之といった料理人がコツを教えたり、門間和子や広瀬まりを始めとする料理研究家が20分間で一食分の料理を仕上げたりするコーナーが設けられています。

それどころか、米の研ぎ方から包丁の持ち方、道具の選び方など初めて料理をする小学生のレベルのリテラシーを番組やテキストで説明するようになったのです。


しかし、このようなずぶの素人を馬鹿にしてはなりません。

50歳くらいでも、たくあん漬けの黄色を元々はどうやって出していたかを知る人は少ないはずです。

今はウコンを用いることが多いのですが、かつては違います。

つるし柿にするのに、渋柿の皮を剥きますが、それを使うのです。

皮ももったいないというわけです。

その際、青首大根は仕上がりの色が悪いので、避けられる傾向にありました。

ところが、1960年代にはこうした知恵はあまり継承されなくなっています。


番組の対象は家庭で料理をつくる人たちです。

「きょうの料理」は家庭での料理の豊かさや楽しみを提案するだけでなく、料理の基礎的な技能・知識を教育し、その拡張を示唆する番組です。

お菓子を含めた外国料理や洋食、懐石・割烹料理、国内の地域料理の紹介も去ることながら、従来から肉じゃがやけんちん汁、梅干といった家庭で継承されてきた料理のレシピもとりあつかっています。

都市化・核家族化が進んでいますから、家庭料理も通時的ではなく、共時的に伝達される必要があるのです。


入門書は暗黙知としてのリテラシーを明示知として、初心者に示す役割を持っています。

それには、一般の人が陥りやすい失敗や抱く疑問に即座に応えるための広範囲な技能・知識に裏打ちされていなければなりません。

専門家にとっても、普段意識せずに行っていることを再認識するのは再発見につながるというものです、入門書は熟達者と非熟達者との相互交流の場なのです。


テレビのワイド番組は、必ずと言っていいほど、料理に言及します。

また、各局共に料理番組が編成されています。

料理に対する関心は非常に高いものがあります。しかし、そんな中でも「きょうの料理」は別格です。

他の番組が打ち切られても、「きょうの料理」が次の改変期にそうなるとは思えません。

それは、多くの番組が出演タレントや流行の料理に依存しているのに対し、「きょうの料理」はあくまでも料理における「きょう」が主体だからです。

料理を通じて「きょう」を最も感じさせる番組と言っても過言ではありません。


しかも、スロー・フード運動のように、料理に関する新たな潮流を率先しているわけではありません。

とにかく「きょう」に慎ましく寄り添い続けています。

料理は本来こうでなければならないと視聴者に押し付けることなどないのです。


「きょう」に寄り添い続けるのは、意外と難しいものです。

「きょう」に対して、調子に乗ったり、見くびったり、軽蔑したり、嫌っていたり、無関心でいたりと独善的・衝動的に接してしまうことが多いのです。

けれども、腹を決めて涼やかなパッションで臨むとき、「きょう」というものを実感できるのです。


飢餓から飽食と来て、今は食の安全が最大の関心事と言えます。

ヘルシー志向と多様な料理への興味も依然として続いています。

食育が問われ、食をめぐる問題意識も大きく変わりつつあります。

「きょう」の意味合いはつねに変化してきましたが、これからもそうであるに違いありません。「きょうの料理」もそれと向き合っていくことでしょう。

『ハッチポッチ・クリティシズム』で料理に触れた批評

http://hpcunknown.hp.infoseek.co.jp/unpublished/henrymiller.html

http://hpcunknown.hp.infoseek.co.jp/unpublished/rosanjin.html


『ハッチポッチ・クリティシズム』のバック・ナンバーは以下のサイトで読むことができます(誤字や脱字、誤表記も訂正しております)。

http://www.geocities.jp/hpcriticism/mm.html


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時代とともに歩んだ料理番組は、わかりやすいです。

料理番組とか料理本は、見ているだけで、幸せな気分になります。


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