[Financial Times]
民主化への道のりで躓き続ける韓国
2014年04月29日(火)
Financial Times
(2014年4月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
韓国フェリー「セウォル号」の悲劇の凄惨な規模が明らかになると、被害者の家族がソウル行きのバスをチャーターし、朴槿恵(パク・クネ)大統領に直談判しようとした。
彼らの行く手は、最終的に450人に膨れ上がった警官隊に阻まれた。
同じ日、障害を持つ人たちの集団が韓国の「障害者の日」を記念し、ソウル市内でバスに乗り込もうとした。障害者にとって韓国のバスのアクセシビリティーがいかに低いかを訴えるための行動だった。
彼らも警察に阻止され、液体催涙ガスを顔に吹き付けられた。
1週間前の2つの出来事は、わずか27年前には軍事独裁体制だった韓国の民主的制度機構の強さに関する大きな懸念を映し出している。
■ 朴槿恵政権の権威主義的傾向に懸念
当時の独裁体制を敷いたのが、朴槿恵大統領の父親の朴正熙(パク・チョンヒ)氏だった。韓国を一変させた彼の経済政策への郷愁は、朴槿恵氏の大統領選勝利に一役買った。だが、朴槿恵氏の反対勢力は嬉々として、朴正熙氏の人権侵害の過去に飛びついた。
朴槿恵氏の父・朴正煕氏
反対勢力の言葉は時として辛辣で、不快なことさえある。ある国会議員は朴槿恵氏に対し、父親と同じ最期——つまり暗殺——を迎えてはならないから、その権威主義の先例に倣わない方がいいと警告した。
だが、朴槿恵政権下で講じられたいくつかの対策は、権威主義の批判を煽る一因になった。
4月20日の被害者家族に対する警察の対応はとりわけ疑わしく、市民団体の「人権弁護団」によれば「完全に違法」だったが、これはより大きなトレンドの一環だ。韓国では、小規模で平和的な抗議行動でさえ、一般的に大規模な警官隊が動員される。
昨年12月には、鉄道従業員による非合法ストの首謀者を探すために、4600人もの警官が全国民主労働組合総連盟の本部に突入した。
一方、大統領選を巡っては、国の諜報機関の工作員がソーシャルメディア上の大量投稿で対立候補を誹謗中傷したことが暴露された一件が朴槿恵氏の勝利に影を落とした。
この告発を調査していた主任検察官は昨年、メディアの不倫疑惑報道で辞任を余儀なくされた。
ところが、その後、問題の記事が出る前に、青瓦台(大統領府)の高官が違法に検察官の私生活を照会していたことが明らかになった。
こうした不正行為と朴槿恵氏を結び付ける証拠はないが、大統領の行動は、権威主義的な傾向への疑惑を払拭する助けにならなかった。
朴槿恵氏は昨年8月、父親を事実上の終身大統領に据えた反民主的な1972年維新憲法の草案メンバーを秘書室長に任命した。
12月には、政党の解散請求を出した。
政党解散が実現したら、1958年以来のことになる。
青瓦台は、左派の統合進歩党の解散が必要なのは、同党の複数のメンバーが北朝鮮を支持して国家反逆的な声明を出しており、反乱を企てているとの嫌疑がかけられているからだとしている。
ある国会議員はその後、20年間の懲役刑を言い渡された。
韓国の民間機関は1987年以降、非常に大きな進歩を遂げ、公の議論は以前と比べ物にならないほど自由になっている。
最大手クラスの新聞は概ね、朴槿恵氏の率いる保守派セヌリ党に好意的だが、定期的に、時には厳しく政府を批判する。
■ 前政権から言論の自由も後退
だが、朴槿恵氏の前任者である李明博(イ・ミョンバク)政権時代から後退が見られた。
フリーダムハウスは2011年に、李政権下でオンライン検閲が強化され、160人のジャーナリストが政府を批判したか報道の自由のためにロビー活動を行ったことで罰せられたとし、韓国の言論の自由度を「自由」から「部分的に自由」へ格下げした。
物議を醸す1948年国家安全保障法
——「反国家」活動を禁じる広義な文言を盛り込んでおり、昨年、人権に関する国連特別報告で非難された——
に基づく立件は、2008年の31件から昨年の102件へと、着実に増えてきた。
フェリー沈没の大惨事は、国家的な内省を引き起こした。
これを機に、韓国国民に相応しい民主主義へ至る、未完の旅を評価するといいだろう。
By Simon Mundy in Seoul

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